2012年07月
2012年07月16日
近況(共著を2冊刊行しました)
前回の更新から3ヵ月以上開きましたが、このブログも細々と続けていくつもりです。
◇
さて、この間の個人的に大きな出来事は以下の2冊の共著が刊行されたことです(版元情報は画像にリンクを付けておきました)。どちらも日米関係絡みのプロジェクトで、当初は昨年度中に出版される予定だったのが、諸々の事情から今年度にずれこんでしまいました。
◇
1冊目は4月末に刊行された日米協会・編(五百旗頭真、久保文明、佐々木卓也、簑原俊洋・監修)『もう一つの日米交流史――日米協会資料で読む20世紀』(中央公論新社)です。
日米協会(リンク)は日米間の交流や相互理解の促進などを目的として1917年に設立された民間の団体です。初代会長が金子堅太郎、戦後は吉田茂、岸信介、福田赳夫といった首相経験者が会長を務めたことからも分かるように、民間にありながら政府とも関係が深く、日米双方の様々な関係者が演説/講演を行っています。例えば駐米大使と駐日大使は着任前と帰任時に日米協会で講演をするのが慣わしとなってきましたし、日米双方多数の要人が日米協会で講演をしています。
これらの貴重な演説/講演が英文のBulletinなどの形で残されており、資料集などの形で出版することは出来ないか、というのがこのプロジェクトの始まりだったようです。私が加えて頂いたのは途中からなので詳しいことは分かりませんが、最終的には「資料集+演説の解説」という形ではなく政治外交史の観点で全体の流れを押さえつつ、経済や文化交流にも目を配った形で通史的叙述の中に演説を埋め込んでいくというユニークな本になりました。
なぜか80年代前半は専門外の私が書かせて頂くことになったわけですが、他の部分は納得の人選です。戦前は監修者でもある簑原先生とかねてから日米協会の所蔵資料を使って研究を進められていた飯森明子先生、戦後の活動再開から60年安保までは楠綾子先生、60年代は昇亜美子先生とアメリカの対日政策を研究している玉置敦彦君が共同執筆、70年代頭は井上正也先生、半ばから後半は佐藤晋先生、80年代後半は千々和泰明先生という若手中心ながら豪華執筆陣です。なお80年代も文化交流の部分など「共同執筆」扱いになっている箇所もありますが、基本的には全て時代で区切り、あとは文言等や体裁の統一をした程度で実質的には分担執筆という形を取りました。
各章共に、最新の研究成果を織り込んだ政治外交史をふまえて全体の流れを整えつつ、日米協会で行われた演説/講演を紹介していく形になっています。80年代前半は、まだまだ利用できる一次資料が限られていることもあり、史料面でも新しさがある他の章とは異なり、全体のバランスを意識して80年代という時代の性格を捉えることを重視して執筆しました。安保面での日米摩擦が徐々に解消していく一方で経済面の対立が激しくなり、日米関係を限られた知米派・知日派だけで処理することができなくなっていくという時代の感覚や雰囲気を、日米協会における講演を織り込むによって出せたのではないかと思います。自画自賛になってしまいますが、分担執筆ながら千々和さんが担当された80年代後半ともうまく繋がったのではないかと考えています。
残念ながら私が担当した時代は、50年代のダレスやニクソン、60年代の吉田茂の講演のように歴史的にも貴重な講演があったわけではありません。それでも東郷文彦や大河原良雄(現・日米協会会長)といった新旧の駐米大使、福田赳夫元首相や大来佐武郎前外相などの日本側講演、モンデール前副大統領(講演後には民主党大統領候補)、アラバマ州知事のジョージ・ウォーレス、フルブライト元上院議員、海兵隊出身のローレンス・スノーデン在日米国商工会議所会頭といった米国側講演からは、外交文書や新聞報道を見るだけではなかなか分からない苦悩する知米派・知日派の姿が浮かび上がってきたように思います。
先月末に国際文化会館で特別出版記念フォーラムが行われ、僕も執筆者の1人として5分という短い時間ではありますが担当した時代について話してきました。このフォーラムの様子と本について産経新聞の千野境子さんが「土曜日に書く」というコーナーに「歴史刻んだ民間の日米交流、摺鉢山に日米勇士の碑」と題した7月15日掲載のコラムで紹介してくれました(リンク)。悪事でなく新聞に自分の名前が載る日が来るとは(笑)
今でこそ日本国際交流基金や日本国際交流センター(JCIE)など日米のみならず広く国際交流を手掛ける機関がありますが、日米協会が交流事業を一手に引き受けた時代がありました。日米協会の歴史、日米協会での演説/講演、日米関係史を通史的に書いた本書から浮かびあがる世界に関心がある方は決して少なくないのではないでしょうか。抜粋ではありますが巻末に演説の原文を収録するなど資料的価値もありますし、60年代のように最新の研究成果を惜しみなく盛り込んでいる章もあるので、研究としても読める少し変わった通史にもなっています。全体を通じて読み物としてもそれなりに面白いものになったのではないかと思います。ただ…600頁とはいえ定価が12600円(本体12000円)という普通は手が出ない設定になっているので、関心がある方は是非図書館等でご覧頂ければ幸いです。ちなみになぜか版元HPには四六判と出ていますが、A4判です。
日米関係にも80年代前半という時代にも関心は持ってはいたものの、博士論文で取り組んでいる研究課題からは少しはずれるので、不安が無かったわけではないのですが、こうやって本として刊行されると嬉しいものです。自分が研究しているテーマや時代をもう少し後の時代から眺めると何が見えてくるのかといったことや、政治や安全保障、経済、文化をバランス良く捉えようと努力する作業がこの段階で出来たことはとても良かったと思っています。改めて声をかけて頂いた諸先生方や事務局の方々に感謝です。
◇
もう1冊は6月頭に刊行された簑原俊洋・編『「戦争」で読む日米関係100年――日露戦争から対テロ戦争まで』(朝日選書)です。
2年ほど前に同じく朝日選書から出た筒井清忠・編『解明 昭和史――東京裁判までの道』のように、最新の研究成果を踏まえた一般書として企画されたもので、編者の簑原先生、冷戦期を取りまとめられた楠先生に声をかけて頂きました。ありがたいことに、この本では自分の専門の話を書くことができました(「第9章 第四次中東戦争――石油をめぐる日米の対立と協調」)。
取り上げられている「戦争」は、日米が直接対峙した第二次世界大戦を除いたもので、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変、日中戦争、朝鮮戦争、中ソ対立、ベトナム戦争、第四次中東戦争、湾岸戦争、対テロ戦争、それから「核なき世界」や「新しい戦争」と「人間の安全保障」といったテーマに及ぶ、こちらもなかなか類書が無いユニークな本になっています。戦前、冷戦期、冷戦後の3部構成、全14章です。
私の担当部分の大枠は「第一次石油危機における日本外交再考――消費国間協調参画と中東政策「明確化」」『法学政治学論究』第89号、2011年6月(リンク)などこれまでに発表した論文を改稿した形になっていますが、日本外交ではなく日米関係を分析対象としたこと、そして日米関係をただ日米関係として捉えるのではなく、出来る限り広い国際的な文脈の中に置いて考えたことに新味があります。一般向けの短い論考ではありますが、従来の第一次石油危機や第四次中東戦争時の日米関係/日本外交とはかなり異なるイメージを打ち出せたのではないかと思っています。一般向けの選書という性格もあって一次資料に関して詳細な注は付けることが出来ませんでしたし、実際には文書を使っていても地の文に埋め込んだ部分が多いのですが、米国立公文書館での資料収集の成果を多少入れることが出来たこともこれまでに発表した研究と比べた新しい点です。
博論で取り組んでいる「日本外交」ではなく「日米関係」としての意義付けを意識してこの問題を考えるとても良い機会になりました。もちろん国際的な文脈を押さえることは「日本外交」を研究する際にも重要ですが、やはり「日本外交」として捉える場合は国内や官庁の内部の文脈がより重要になります。「閉じた」歴史にしないためには国際的な文脈を押さえる必要があることは言うまでもないことです。ただ、「国際政治史」ではなく、あえて「一国外交史」を書くことにもそれなりに意味があることだと今は考えています。この辺りのバランスをどう工夫していくかは博士論文をまとめていく上でも大きな課題になりそうです。
『もう一つの日米交流史』とは違い、こちらは一般読者を想定した選書であり、約300頁、税込1680円という良心的な価格設定になっています。私の担当章はともかくとして、どの章も最新の研究成果を踏まえて一般向けに約1万字で書かれているので自信を持っておススメできる1冊です。関心のある方は是非ご一読を!
◇
この他、共著書の翻訳出版や、ある元外交官の方のインタビュー記録の出版など、楽しみな企画が後ろに控えています。順調に進めば、どちらも今年度後半に刊行ということになりそうです。
と、本好きの自分にとっては嬉しい出来事が続いたわけですが、肝心の博士論文はなかなかうまく進まない時期が続きました。ただようやく骨格が固まったかなという感じになってきたので、今週師匠に相談をしてOKが出たらペースを一気に上げて書いてしまいたいと思っています。9月に約3週間ほどロンドンに資料収集に行く予定なので、それまでに終わらせることが絶対目標です。
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さて、この間の個人的に大きな出来事は以下の2冊の共著が刊行されたことです(版元情報は画像にリンクを付けておきました)。どちらも日米関係絡みのプロジェクトで、当初は昨年度中に出版される予定だったのが、諸々の事情から今年度にずれこんでしまいました。
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1冊目は4月末に刊行された日米協会・編(五百旗頭真、久保文明、佐々木卓也、簑原俊洋・監修)『もう一つの日米交流史――日米協会資料で読む20世紀』(中央公論新社)です。
日米協会(リンク)は日米間の交流や相互理解の促進などを目的として1917年に設立された民間の団体です。初代会長が金子堅太郎、戦後は吉田茂、岸信介、福田赳夫といった首相経験者が会長を務めたことからも分かるように、民間にありながら政府とも関係が深く、日米双方の様々な関係者が演説/講演を行っています。例えば駐米大使と駐日大使は着任前と帰任時に日米協会で講演をするのが慣わしとなってきましたし、日米双方多数の要人が日米協会で講演をしています。
これらの貴重な演説/講演が英文のBulletinなどの形で残されており、資料集などの形で出版することは出来ないか、というのがこのプロジェクトの始まりだったようです。私が加えて頂いたのは途中からなので詳しいことは分かりませんが、最終的には「資料集+演説の解説」という形ではなく政治外交史の観点で全体の流れを押さえつつ、経済や文化交流にも目を配った形で通史的叙述の中に演説を埋め込んでいくというユニークな本になりました。
なぜか80年代前半は専門外の私が書かせて頂くことになったわけですが、他の部分は納得の人選です。戦前は監修者でもある簑原先生とかねてから日米協会の所蔵資料を使って研究を進められていた飯森明子先生、戦後の活動再開から60年安保までは楠綾子先生、60年代は昇亜美子先生とアメリカの対日政策を研究している玉置敦彦君が共同執筆、70年代頭は井上正也先生、半ばから後半は佐藤晋先生、80年代後半は千々和泰明先生という若手中心ながら豪華執筆陣です。なお80年代も文化交流の部分など「共同執筆」扱いになっている箇所もありますが、基本的には全て時代で区切り、あとは文言等や体裁の統一をした程度で実質的には分担執筆という形を取りました。
各章共に、最新の研究成果を織り込んだ政治外交史をふまえて全体の流れを整えつつ、日米協会で行われた演説/講演を紹介していく形になっています。80年代前半は、まだまだ利用できる一次資料が限られていることもあり、史料面でも新しさがある他の章とは異なり、全体のバランスを意識して80年代という時代の性格を捉えることを重視して執筆しました。安保面での日米摩擦が徐々に解消していく一方で経済面の対立が激しくなり、日米関係を限られた知米派・知日派だけで処理することができなくなっていくという時代の感覚や雰囲気を、日米協会における講演を織り込むによって出せたのではないかと思います。自画自賛になってしまいますが、分担執筆ながら千々和さんが担当された80年代後半ともうまく繋がったのではないかと考えています。
残念ながら私が担当した時代は、50年代のダレスやニクソン、60年代の吉田茂の講演のように歴史的にも貴重な講演があったわけではありません。それでも東郷文彦や大河原良雄(現・日米協会会長)といった新旧の駐米大使、福田赳夫元首相や大来佐武郎前外相などの日本側講演、モンデール前副大統領(講演後には民主党大統領候補)、アラバマ州知事のジョージ・ウォーレス、フルブライト元上院議員、海兵隊出身のローレンス・スノーデン在日米国商工会議所会頭といった米国側講演からは、外交文書や新聞報道を見るだけではなかなか分からない苦悩する知米派・知日派の姿が浮かび上がってきたように思います。
先月末に国際文化会館で特別出版記念フォーラムが行われ、僕も執筆者の1人として5分という短い時間ではありますが担当した時代について話してきました。このフォーラムの様子と本について産経新聞の千野境子さんが「土曜日に書く」というコーナーに「歴史刻んだ民間の日米交流、摺鉢山に日米勇士の碑」と題した7月15日掲載のコラムで紹介してくれました(リンク)。悪事でなく新聞に自分の名前が載る日が来るとは(笑)
今でこそ日本国際交流基金や日本国際交流センター(JCIE)など日米のみならず広く国際交流を手掛ける機関がありますが、日米協会が交流事業を一手に引き受けた時代がありました。日米協会の歴史、日米協会での演説/講演、日米関係史を通史的に書いた本書から浮かびあがる世界に関心がある方は決して少なくないのではないでしょうか。抜粋ではありますが巻末に演説の原文を収録するなど資料的価値もありますし、60年代のように最新の研究成果を惜しみなく盛り込んでいる章もあるので、研究としても読める少し変わった通史にもなっています。全体を通じて読み物としてもそれなりに面白いものになったのではないかと思います。ただ…600頁とはいえ定価が12600円(本体12000円)という普通は手が出ない設定になっているので、関心がある方は是非図書館等でご覧頂ければ幸いです。ちなみになぜか版元HPには四六判と出ていますが、A4判です。
日米関係にも80年代前半という時代にも関心は持ってはいたものの、博士論文で取り組んでいる研究課題からは少しはずれるので、不安が無かったわけではないのですが、こうやって本として刊行されると嬉しいものです。自分が研究しているテーマや時代をもう少し後の時代から眺めると何が見えてくるのかといったことや、政治や安全保障、経済、文化をバランス良く捉えようと努力する作業がこの段階で出来たことはとても良かったと思っています。改めて声をかけて頂いた諸先生方や事務局の方々に感謝です。
◇
もう1冊は6月頭に刊行された簑原俊洋・編『「戦争」で読む日米関係100年――日露戦争から対テロ戦争まで』(朝日選書)です。
2年ほど前に同じく朝日選書から出た筒井清忠・編『解明 昭和史――東京裁判までの道』のように、最新の研究成果を踏まえた一般書として企画されたもので、編者の簑原先生、冷戦期を取りまとめられた楠先生に声をかけて頂きました。ありがたいことに、この本では自分の専門の話を書くことができました(「第9章 第四次中東戦争――石油をめぐる日米の対立と協調」)。
取り上げられている「戦争」は、日米が直接対峙した第二次世界大戦を除いたもので、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変、日中戦争、朝鮮戦争、中ソ対立、ベトナム戦争、第四次中東戦争、湾岸戦争、対テロ戦争、それから「核なき世界」や「新しい戦争」と「人間の安全保障」といったテーマに及ぶ、こちらもなかなか類書が無いユニークな本になっています。戦前、冷戦期、冷戦後の3部構成、全14章です。
私の担当部分の大枠は「第一次石油危機における日本外交再考――消費国間協調参画と中東政策「明確化」」『法学政治学論究』第89号、2011年6月(リンク)などこれまでに発表した論文を改稿した形になっていますが、日本外交ではなく日米関係を分析対象としたこと、そして日米関係をただ日米関係として捉えるのではなく、出来る限り広い国際的な文脈の中に置いて考えたことに新味があります。一般向けの短い論考ではありますが、従来の第一次石油危機や第四次中東戦争時の日米関係/日本外交とはかなり異なるイメージを打ち出せたのではないかと思っています。一般向けの選書という性格もあって一次資料に関して詳細な注は付けることが出来ませんでしたし、実際には文書を使っていても地の文に埋め込んだ部分が多いのですが、米国立公文書館での資料収集の成果を多少入れることが出来たこともこれまでに発表した研究と比べた新しい点です。
博論で取り組んでいる「日本外交」ではなく「日米関係」としての意義付けを意識してこの問題を考えるとても良い機会になりました。もちろん国際的な文脈を押さえることは「日本外交」を研究する際にも重要ですが、やはり「日本外交」として捉える場合は国内や官庁の内部の文脈がより重要になります。「閉じた」歴史にしないためには国際的な文脈を押さえる必要があることは言うまでもないことです。ただ、「国際政治史」ではなく、あえて「一国外交史」を書くことにもそれなりに意味があることだと今は考えています。この辺りのバランスをどう工夫していくかは博士論文をまとめていく上でも大きな課題になりそうです。
『もう一つの日米交流史』とは違い、こちらは一般読者を想定した選書であり、約300頁、税込1680円という良心的な価格設定になっています。私の担当章はともかくとして、どの章も最新の研究成果を踏まえて一般向けに約1万字で書かれているので自信を持っておススメできる1冊です。関心のある方は是非ご一読を!
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この他、共著書の翻訳出版や、ある元外交官の方のインタビュー記録の出版など、楽しみな企画が後ろに控えています。順調に進めば、どちらも今年度後半に刊行ということになりそうです。
と、本好きの自分にとっては嬉しい出来事が続いたわけですが、肝心の博士論文はなかなかうまく進まない時期が続きました。ただようやく骨格が固まったかなという感じになってきたので、今週師匠に相談をしてOKが出たらペースを一気に上げて書いてしまいたいと思っています。9月に約3週間ほどロンドンに資料収集に行く予定なので、それまでに終わらせることが絶対目標です。