後期の授業が始まりました国際政治学会で報告をしてきました

2010年10月25日

黒木亮『エネルギー』/先週&先々週の授業(10月第3週&第4週)

これ以上ブログの更新が滞りがちな言い訳をしたり、「書く書く詐欺」ばかりを繰り返しても仕方が無いとあきらめモードの中、2週間ぶりに更新することにしました。

この間も、いくつか課題がありましたが、やはり一番大きいものは学会報告ペーパーの執筆です。全く新しい時代&テーマに取り組んだわけでは無く、これまでの研究をベースにしたものとは言え、まだ論文を1本公刊、1本投稿しただけの自分にとっては、大変な作業でした。

実質的な執筆期間は約1週間強(それもほぼ一日中を費やしました)であり、これまでの2本と比べるとかなり早く書けたとは思いますが、研究者として独り立ちするためには、これでも時間がかかり過ぎているのかもしれません。論文の冒頭には、忸怩たる思いで「未定稿につき無断での引用はご遠慮下さい」という一文を掲げましたが、論文として投稿するためには、資料と議論のいずれにおいても学会報告を踏まえてもう少し深めていく必要がありそうです。

当たり前のことですが、歴史研究は執筆時間以上に資料収集や読み込みに時間がかかります。倦まず弛まず続けていくしかないことは分かっているので、今後もこつこつ頑張って行こうと思います。

◇◇◇

ワーカホリック体質らしく、気分転換のはずの夜の読書も研究に引きづられがちな今日この頃。小説も自分の研究に関係するようなものをついつい手に取ってしまいがちです。でも、そんな状況で読んだ本が面白いと得をした気分になります。

最近読んだ中でのおススメが↓、黒木亮『エネルギー(上・中・下)』(講談社文庫)です。

※版元情報は画像にリンクしてあります。

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父の本棚にあった城山三郎を手に取って以来、経済小説の類は結構好きだったので、黒木亮の小説もいくつか読んでいましたが、国際金融の話は遠い世界で、勉強半分で読んでいるような感じでした。

その黒木亮が『エネルギー』という小説をWeb連載しているというのを知ったのが、ちょうど自分がエネルギー問題について関心が湧いてきた時期でした。結局、連載で読むのがあまり好きではないため、連載中はせっかく連載サイトの会員だったにも関わらずほとんど読まず、単行本が出た後も本棚のスペースがなあ、と思い読んでいませんでした。この度めでたく文庫化ということで一気に読みました。

舞台となるのは、90年代後半から2007年頃。サハリンの巨大ガス田開発プロジェクトをストーリーの軸に、イラン石油権益、石油関係のデリバティブ取引にのめり込んでいく中国企業の話が主要な物語として描かれています。

現実に起こった出来事をベースに展開される三つのストーリーはそれぞれに展開していくため、一つの大団円に繋がるわけではありません。しかし、読み進めていく内に「エネルギー」を軸に、いかに様々な利害が交錯し繋がっているのかが浮かび上がってくるのはとても見事です。

主要な登場人物は、サハリン・プロジェクトに携わる商社マン、イランでの石油開発にかける商社マン、エネ庁石油・天然ガス課長、環境NGOのスタッフ、エネルギー関係の金融取引を手掛けるトレーダー、そしてデリバティブ取引にのめり込んでいく中国企業の社長の6名です。それぞれを丁寧に描きながら、「エネルギー」を巡る現代の物語は展開していきます。

読んでいて思い出したのは、ダニエル・ヤーギン『石油の世紀(上・下)』(日本放送出版協会、1991年)[原題:The Prize: The Epic Quest for Oil, Money, and Power]です。『石油の世紀』は、19世紀半ばの「発見」から約150年に渡って石油資本、産油国、消費国、国際機関等々で繰り広げられる様々な出来事を描く一大叙事詩です。「石油」こそが主人公として展開される物語は学術書としてだけではなく、読み物としてもとても面白いです。

この『エネルギー』は、『石油の世紀』では描かれることのない、現代の「エネルギー」を巡るドラマです。話の軸となるエネルギーは石油・天然ガスですが、原発が稼働停止になることによって天然ガス需要が急増するといった形での影響や、アメリカのITバブル崩壊に伴い年金基金のマネーが商品市場にも流入するといった、エネルギー市場の有機的な繋がりがとてもよく描かれています。また、環境NGOの動きと融資の関係、広い国際情勢とビジネスの関係なども印象的です。

小説ではありますが、石油や天然ガス、原子力といった「エネルギー」について考える際に是非手に取って欲しい一冊です。もちろん、小説としても面白いことは言うまでもありません。

ちなみに、現実に即した概説書としては↓、松井賢一『エネルギー問題!』(NTT出版、2010年)がおススメです。

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◇◇◇

まずは先々週(10月第3週)の授業について。木曜日の授業前に急遽やらければいけない課題が出来てしまい欠席したので、『クローチェ』について考える貴重な機会を逸してしまったのが残念なところです。

<水曜日>

2限:国際政治論特殊演習(院ゼミ)

発表担当ということで、月末の学会報告へ向けた予行演習…のはずだったのですが、ペーパーを執筆途中ということで、中間報告的な発表になってしまいました。時間配分や強調すべき点など、色々な点でまだまだ練り直さなければいけないことがよく分かったのはとても大きな収穫でした。

この発表から約1週間後にペーパーは完成、いまは報告に向けて原稿を作り直しているところです。

◇◇◇

続いて先週(10月第4週)の授業について。と言っても、木曜日のプロジェクト科目が休講だったので、大学での授業そのものは月曜日だけでした。

<月曜日>

3限:地域研究・比較政治論特殊演習

M2の修士論文中間報告。未発表の研究なので詳細は書けませんが、1970年代後半から80年代前半を対象に、丹念に一次資料を読み込んだ研究で、今後の期待大です。自分が研究を始めた頃は、70年代前半から半ばがもう歴史研究の対象なのだと驚かれましたが、歴史研究の最前線はもっと先に行っているのだなと実感しました。

興味深かったのは、先生のコメントです。少し前の話なのでしっかりと記憶していないのですが、丹念に資料を読み込む歴史研究をわざわざやるのだから、あらかじめ議論を設定し過ぎてしまうと、様々な可能性が消えてしまう、というのが大体の要旨だと思います(実際はもう少し含蓄のある言い方だったと思います)。このように書くと当たり前ではないかと思われるかもしれませんが、重要だと思う要因を過度に「はじめに」などで強調してしまうことはありがちなことです。

もう一つは、分析対象そのものに着目するだけではなく、その対象が置かれた文脈をもう少し考える必要があるということです。これもごくごく当たり前のことではありますが、資料を読み込み、研究に集中すればするほど、話が細かくなり、なぜ自分がこのテーマに注目したのかといったことをついつい忘れてしまいがちになります。

自分を戒める意味でもとても勉強になりました。

<水曜日>

ジョセフ・ナイ尽くしの一日。大学が、ハーバード大学ケネディ・スクール特別功労教授であり米政府要職を歴任したジョセフ・ナイに名誉博士号を授与したからです。

師匠がアテンド役の一人だったこともあり、役得で演説館での名誉博士号授与式に参列し、その後は北館ホールでの記念講演に出席しました。講演内容の簡単なまとめは、翌日の日経朝刊に出ていましたので関心がある方はそちらをチェックして下さい。

これだけでは終わらず、その後は某雑誌に掲載予定の座談会収録を聴講させて頂きました。師匠に感謝。おそらく半年くらい後には公刊されることになると思いますので、内容はそれまでお楽しみということで。

結構、印象深い一日だったので、中身をあまりここに書けないのが残念です。

<金曜日>

5限(16時~18時):国際関係論コロキアム@東大駒場キャンパス

ナイ名誉博士号授与式の関係で休講になった院ゼミの代わりに、東大(駒場)で国際関係論コロキアムがありました。ゲストは、お馴染みのDavid A. Welchウォータールー大学教授です。

これまでウェルチ先生が来日した時は、完成した本が課題文献に指定されてきましたが、今回は未定稿が課題文献でした。というわけで内容を書くのは適切では無いと思うのですが、コロキアムの案内に題目が出ていたのでそれを転載しておきます↓

“Securitization, or Threat Perception? :Competing Visions of Security and Security Threats”

題名から分かるように、ペーパーの一つのポイントはSecuritization(「証券化」じゃない方です)について。それほど多くの文献を読んだわけではありませんが、これまで読んだどの文献よりもSecuritizationの利点と欠点をとてもうまく指摘いると思いました。

ただし議論の中心になったのはその部分では無く、ペーパーの後半で書かれていたSecurityの定義を巡る問題です。この辺りは、研究のアイディアに関係してきてしまいそうなので割愛しようと思いますが、環境安全保障はどうやら先生にとっては重要なテーマだということで、ここが自分はうまく消化出来ませんでした。

自分の研究にも実は関係していると理解しつつも、「環境」は避けがちなテーマだっただけに、これをきっかけに少し真面目に調べてみようと思いました。


black_ships at 19:33│Comments(0) ゼミ&大学院授業 | 本の話

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