積読増加中今週の授業(4月第4週)

2010年04月20日

気候から見た国際政治

この1、2週間で、国際政治に影響を与える思いもよらない出来事が相次いでいます、何と言っても一番の衝撃はポーランド政府専用機の事故ですが(サッカー好きなら「ミュンヘンの悲劇」を想起するところです)、個人的に色々と考えさせられたのはアイスランドの火山噴火です。この21世紀になっても、いかに「気候」が人類に大きな影響を与えるのかを実感した人も多いのではないでしょうか。

加えて、これは国際政治というよりは国内の生活への影響が大きいことですが、3月から4月にかけての季節外れの冷え込みも興味を惹かれる対象です。この冷え込みの原因は「北極振動」と言われるものらしく、解説記事がいくつかの新聞に出ていました(リンク)。

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なぜ「気候」のニュースに反応しているかと言えば、先月たまたま田家康『気候文明史――世界を変えた8万年の攻防』(日本経済新聞出版社)という本を読んでいたからです(※版元情報は画像にリンクを貼ってあります)。

Amazon等で検索をかけてみれば分かるように、気候変動と人類の歴史を取り上げた文献自体は決して珍しいものではありません。日本にも定評ある研究者が何人もいますし、直接文明との関わりは論じていなくとも、阪口豊『尾瀬ヶ原の自然史――景観の秘密をさぐる』(中公新書)のような緻密な実証研究ながら、それを通して人類の歴史が見えてくるような優れた読み物もたくさんあります。

その中でこの本が面白いのは、著者が学者ではないこともあり、縦横無尽に内外の優れた研究を渉猟し、それをうまくまとめる作業に徹しているからです。諸外国における研究の多くは、気候と人類の関係を論じていてもそれは欧米に偏りがちです。また日本国内の研究者の場合は、どうしても自分の研究に引き付けた話を展開しがちです。そうした中で、この本はバランス良く内外の研究を使い分けながら、旧石器時代から現代の地球温暖化問題までの気候と人類の歴史をまとめており、とても読みやすい良書となっています(ちなみに、『気候文明史』については、インターネットでは読むことが出来ませんが、3月28日の日経読書欄に紹介が出ていました)。

実は「気候」に反応してしまうのは、『気候文明史』に触発されて、他大学の某ゼミの卒業論文集に「気候から見た国際政治」というコラムを書いたからです。実証などしなくともいいので好きに面白いものを書けという指令に従って思いつくままに書いたものですが、書いてすぐにアイスランドの噴火のニュースに接したため、せっかくなのでここに載せておこうと思い立ちました。というわけで、以下に駄文を転載しておきます。



気候から見た国際政治

卒業論文の中間報告会と発表会に出席させて頂きました、○○○○です。現在は、第一次石油危機の前後を中心に国際資源市場の構造変動と日本外交について調べています。

いまから40年近く前の議論を見ていると、議論の対象となる問題の多くが、現在と実によく似ていることに驚かされることがあります。資源をめぐる国際政治の中で当時キーワードになっていたのは、「南北問題」と「環境問題」であり、これは形を微妙に変えながらも現在も続いている問題です。この二つの問題は、多様な要素を含むものであり、それゆえ国際政治上も大きな問題となっているわけですが、実はどちらの問題も「気候」と密接に関係しています。

最近、田家康『気候文明史』(日本経済新聞出版社、2010年)という本を読んだのですが、それによれば、人類の歴史は「気候」の変化と密接に関係してきたようです。古代エジプトにおける王朝の衰退、中国における春秋戦国時代の到来、ローマ帝国の衰亡などは、どれも中長期的な気候変動を背景に持つ、数年間にわたる天候不順に時の政治体制が効果的な対応を取れなかったことによって引き起こされた側面を持っているということは、意外と知られていないことです。日本でも、応仁の乱に先立って寒冷化に伴う不作が続き、それによって室町幕府の弱体化が進んだことが指摘されています。

テクノロジーの進展によって、農業から工業、そしてサービス産業を中心とする経済に移行しつつあるこの21世紀においても、「気候」をめぐる問題は国際政治上、重要な位置を占めています。かつてのように、気候変動による不作によって先進国の政治体制が揺らぐことはないのかもしれません。それでも、1970年代初頭の不作がソ連に打撃を与え、アメリカへの食糧依存を引き起こしたように、我々人類は自然のくびきから逃れることが出来ない側面を依然として抱えているのでしょう。

人類の歩みが示唆しているのは、温暖化よりも寒冷化が混乱を生じさせ、引いては文明の衰退を招くということです。大規模な火山の噴火、グリーンランドや南極の氷が溶け出すことによる海流の変化は、温暖化という流れを一時的にせよ寒冷化に向かわせる可能性を持つものであり、そうした事態が今後起こらないとは限りません。CO²削減を巡る国際政治とはまた異なる形で、21世紀の国際政治に「気候」が何らかの影響を与えることがあるのかもしれません。

black_ships at 11:16│Comments(0) アウトプット(?) | 本の話

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