2009年10月10日

気になる本(研究書)の話

秋の夜長に読みたい、気になる本(研究書)についてダラダラと。本当にダラダラなので悪しからず。



ただ目の前にある本を読んでいた高校から学部一、二年、長く読み継がれている古典的な本を貪るように読んだ学部三、四年を経て、大学院に入った頃からは自分の専門分野の研究をしっかりと頭に入れておかなければならないと思い、網羅的に先行研究を読むことを心がけていました。

先行研究の読み込みが大体終わり、そして並行して進めていた修士論文を何とか書き上げた頃から、少しずつ本の読み方が変わってきたように思います。苦労しながらも何とか英語が読めるようになってきたので、読む対象が大きく広がったことも大きいのかもしれませんが、より重要なのは学問の世界に半歩ほどではあっても足を踏み入れたからだと思います。

もちろん過信はあるのだと思いますが、自分の専門分野や隣接分野の研究であれば、その研究がどれだけ「時間」をかけたものかはパッと見れば分かるようになります。また注にどれだけ様々な文献が並べられていても、それが本文に活きているかはすぐに分かるように思います。逆に文献をあまり挙げていないような研究であっても、それがどれだけ「真剣」に思考を重ねたものなのかということはよく分かります。それだけに、「時間」や「真剣さ」が伝わってこないものへの落胆は激しく、著者が真摯に取り組んだものを読んだ時の喜びは格別のものがあるようになってきたように思います。

こうしたことは、ひとつひとつの論文や本に当てはまる話だけでなく、共著書・編著書に顕著に当てはまるような気がします。「お付き合い」で書いた論文だらけの編著書は巷に溢れているわけですが、その一般的な裏事情のようなものが分かってくると、さすがに自分の専門に近いからと安易に買うのは躊躇うようになります。最後に買ったその類の本は戦後日本の平和……、とこの話は止めておきましょう。

論文を書いていると(といってもまだ二本目の仕上げ中ですが)、こうしたことが何となく身体で分かってくるような気がしてきます。気を付けなければならないのは、無駄な力が入って余計なことを書き過ぎてしまうことです。出来る限り贅肉は落として、シンプルで骨太な議論を作るのが字数の限られた論文でやることなのでしょう。と、気が付けばすぐに自分に引き付けて考えてしまうのは悪い癖ですが、これは死んでも治らない(笑)



閑話休題。気になる研究書の話でした。

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戦前や戦後の日本政治・外交に関して様々な研究を読み、そして色々と考えている中で浮かび上がってきた問題意識のひとつに「政と官」の関係があります。気が付けば無意識のうちに周りにいる先生・先輩の問題意識に惹き付けられてしまうという癖が自分にはあるようで、それがいいことなのか悪いことなのかはよく分かりませんが、ともあれ「政と官」の関係が気になるわけです。

そんな中で政治外交史という枠組みが、戦後においてどれだけ有効なのかという問題は自分の中でうまく処理しきれていない部分なのですが、暫定的に言えることは、少なくとも「政治」を独立変数的に考えて、その部分の展開を分析して「外交」を説明するというアプローチの有効性が、戦後のある時期以降に関する限りは低下してきているということです。もちろん、日中関係などは「政治」の要素が依然として高い領域だとは思いますが、それでも「行政」の部分の専門性が高まったことや、政官関係の構造的な変化の影響は日中関係にも及んでいると思います。

こういったことを自分の専門分野の中だけで考えているとブレイクスルーはうまれてこないわけで、最近は行政学の研究をいくつか読んでいます。そこで最も気になる文献が牧原出先生の『行政改革と調整のシステム』(東京大学出版会)です。

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今日の行政学のあり方そのものに問題意識を持ち、イギリス行政学における「ドクトリン」概念を手掛かりに、「行政改革」と「調整」について各国の比較、戦前及び戦後における展開と変容を包括的に検討したこの本はとても気になります。この本は読み始めたばかりなので、その感想と詳しい紹介はまたそのうちに(といって書いていない本だらけですが)。



さて、ここから強引に他の気になる研究書の話に繋げていきたいと思います。この本は西尾勝先生が編者を務める『行政学叢書』の一冊として公刊されたものです。こうした魅力的な叢書がたくさんあることが行政学研究の発展に繋がっていると思いますが、国際政治・外交となるとこうした媒体が限られているのが現状です。

日本国際政治学会・編『日本の国際政治学』のような論文集がないことはないのですが、あれだけの数の著者を抱えているとどうしても各論文のレベルにばらつきがありますし、一章辺りの字数が短すぎるためにどうしても概説的なレベルを超えることが難しくなっています。

最近の注目すべきシリーズとしては、ミネルヴァ書房の「国際政治・日本外交叢書」があります。若手から中堅研究者の博士論文を中心として益田実『戦後イギリス外交と対ヨーロッパ政策』(このブログでの紹介→リンク)をはじめとして、重要な研究がいくつも発表されています。漏れ聞くところによると、叢書の続刊としていくつか重要な博士論文が控えているようです。

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ここにもうひとつ注目すべき叢書が加わることになりました。千倉書房の「21世紀の国際環境と日本」です。題名からすると、現代の国際政治や日本に関する叢書なのかと早とちりしてしまいそうですが、創刊一冊目となるのは水本義彦先生の『同盟の相剋――戦後インドシナ紛争をめぐる英米関係』(出版社HP)です。先ほど大学生協に行ったところ、新刊コーナーに並んでいたので早速購入しました。

この春に千倉書房から復刊された佐藤誠三郎『「死の跳躍」を超えて』や矢野暢『「南進」の系譜』同様に、凝っていながら読みやすい装丁に編集者のこだわりを感じるとともに、「本」というメディアを愛する一人としてにやりとしてしまいます。

『同盟の相剋』については在外研究中の細谷先生もブログで紹介されていましたが(リンク)、この本は水本先生の研究書第一作です。これまでに刊行されてきたいくつかの論文は読んでいましたが、一冊の研究書としてまとまった時にどのようなものになっているのか、とても楽しみです。

それにしても戦後イギリス外交史研究の充実ぶりは本当に驚くべきものです。これまではどちらかと言うと、対ヨーロッパ外交に関係する研究が多かった気がしますが(そのエッセンスは、細谷雄一・編『イギリスとヨーロッパ』勁草書房、2009年の各章で読むことが出来ます)、ここに本格的な英米関係史研究が加わることになりました。

実は、本書が対象とするインドシナ紛争をめぐる英米関係は、戦後日本外交史研究の観点からも興味深い対象です。というのも、この10年ほどの間に行われた若手の日本外交史研究は、宮城大蔵先生の一連の研究をはじめとして、その多くが何らかの形でインドシナ紛争に関係しているからです。

この夏に出たばかりの森聡先生の著作『ヴェトナム戦争と同盟外交――英仏の外交とアメリカの選択 1964―1968年』(東京大学出版会)と読み比べつつ、秋の夜長を楽しみたいと思います。

at 15:00│Comments(0)本の話 

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