2009年05月28日

先週の授業(5月第4週)

遅ればせながらという感じで前回の本の紹介をしたばかりなのですが、先週末は冷戦史の読書会がありました。

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今回のテキストは、↑ウェスタッドのThe Global Cold Warです。冷戦史の古典的な本を読んでいこうというコンセプトからすると、新し過ぎる本ではありますが、あれだけ話題になっている本でありますし、第三世界における冷戦というとウィスコンシン学派のコルコらのイメージが強く、若干の警戒感を持ってしまうこともあるので、読書会で取り上げるのがちょうどいいのかもしれません。

いつものごとく五月雨式に議論をしたので、必ずしもまとまった話が出来たわけではありませんが、いつも以上に参加者全体から意見が出ていたのはよかったと思います。とはいえ、参加する以上は何らかの問題意識を持って全体をしっかり読んできてほしいわけで、その辺りの意識をどう共有して貰うかは悩ましいところです。

自分が読みきれていない部分があることも分かったので、もう少し詰めて細かい部分を読んだ上でいつものように紹介したいと思います。

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せっかく第三世界について考えたということもあり、次回のテキストは、Chen Jian, Mao's China and the Cold War, (Chapel Hill; London: University of North Carolina Press, 2001) になりました。これまた、古典というにはほど遠い時期の出版ですが、それはそれでいいのでしょう。時間を見つけて、中国をめぐる冷戦史の古典的な文献や議論もフォローしたいと思います。



先週に続いて、今週の授業が終わりつつある頃の更新となってしまいましたが、一応簡単に。

<水曜日>

2限:国際政治論特殊研究

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Stephen Hobden and Richard Wyn Jones, "Chapter 8 Marxist Theories of International Relations" が今回の範囲でした。

英語圏におけるマルクス理解は甘いということはしばしば言われることですが、今回のテキストは概説でしかないとはいえ、その点をさらに認識させるようなものでした。学説史的な説明も甘く、リアリズム、リベラル、クンストラクティヴィズム以外のものをほとんどマルキストの理論として取り上げていたりと、首をかしげざるえないような箇所が散見されます。従属論や世界システム論などについても、日本語で書かれた教科書の方がうまくまとめるとともに、今後の展望(あるとすればですが)についても的確に議論が展開されていると思います(例えば、山下範久「第3章 従属論の挑戦と世界システム論の展開」河野勝、竹中治堅・編『アクセス国際政治経済学』日本経済評論社、2003年、などを参照)。

5限:プロジェクト科目(安全保障研究)

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ゲストは↑『大戦間期の日本陸軍』(みすず書房)の著者である黒沢先生でした。黒沢先生には、学部一年時に演習でお世話になって以来、様々な形でお世話になっているので、こういった形でご自身の研究の話を聞くのは何となく変な感じがしました。

テーマは「大正期の軍部から昭和期の軍部へ」ということで、著書の内容をかいつまんで説明するといったイメージでした。『大戦間期の日本陸軍』は、学部の最初の頃以来、久しぶりに授業のために読み返したのですが、初読時には全然周辺知識が無く、本のメッセージをうまく消化出来ていなかったことを痛感しました。

具体的な話ではなくここではリサーチ・デザインのようなものについて簡単に書いておきたいと思います。黒沢先生の研究が特徴的な点は、「あの戦争への道」を強く意識しつつも、それを直接取り上げるのではなく、間接的なアプローチを取っていることだと思います。研究の背景に「戦前の日本がなぜ太平洋戦争を引き起こしたのか」という問いがあることは『大戦間期の日本陸軍』の「あとがき」の記述からも明らかです 。

しかし、本の冒頭に掲げられる明らかにすべき課題は、?一般的に「保守」的な存在とみられていた「大正デモクラシー期」の陸軍がいかなる理由で「革新」化し「昭和ファシズム期」の陸軍へと変質したのか、?なぜ陸軍が1930年代の日本政治の主役となり「太平洋戦争への道」の起動力となったのか、?いわゆる「大正デモクラシー」から「昭和ファシズム」への転換とはどのような歴史的事象として理解しうるのか、の三つです 。これら三つの問いは、必ずしも「戦前の日本がなぜ太平洋戦争を引き起こしたのか」という問いに直接答えるものではなく、太平洋戦争への道に至る主役が陸軍であるという前提があった上で、その陸軍が政治の主役として登場する背景・理由・評価を探る、という間接的なアプローチを取っていると、研究の射程をまとめることが出来るのではないでしょうか。

直接的に「あの戦争への道」を取り上げた研究をもっとよく理解することによって、黒沢先生の研究の意義がより理解出来るのではないか、というのが授業を終えての感想です。それにしても、戦後を対象とした政治外交史研究や、戦前でも海軍を対象とした研究と比べると、陸軍研究は研究が本当に深化しているな、と痛感させられます。もっとも、そうした研究の深化をより幅広い文脈の中に置きなおして、一般化を図るということはまだまだ残された課題なのかもしれませんが。

<木曜日>

5限:プロジェクト科目(政治思想研究)

今回は、(全くの門外漢なのでよく分かりませんが)ティリッヒ研究の第一人者である芦名定通先生がゲスト、テーマは「キリスト教政治思想の現状と課題―ティリッヒと宗教社会主義を中心に―」でした。

いつも以上に馴染みのないテーマだけにあまり無責任なことは言えないわけですが、率直な印象として、なぜ「キリスト教政治思想」を現在における課題として論じる必要があるのか、そしてなぜキリスト教政治思想を哲学的な枠組みから理解する必要があるのか、またなぜ問題が「哲学と政治」ではなく「キリスト教と政治」なのかといった点がさっぱり理解出来ませんでした。政治と宗教を巡るこれまでの歴史を踏まえた時に、また他の政治思想の取り上げ方といった点が、何と言うかアナクロニスティックな印象があったのですが……この辺りは今日の授業で色々と議論になるところなのかもしれません。

at 12:30│Comments(1)ゼミ&大学院授業 

この記事へのコメント

1. Posted by りんむー   2009年05月30日 20:42
ウェスタッドの本は翻訳が出る予定です。

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