2009年05月15日

Alan S. Milward, The European Rescue of the Nation-State

気が付けばゴールデン・ウィークが終わって一週間が経過していました。それなりにやることはあれど、自主的にゴールデン・ウィークを作ろうと思えばいつでも出来る大学院生にとっては、あまりありがたさがよく分からないのですが、なぜか今年はゆっくり休め、さらにやることもそれなりに進んだので社会人の友人達と同様にゴールデン・ウィークを満喫出来たように思います。誤算だったのは、後半体調を崩したことで、まだその後遺症が残っているような気がします。



溜まっている書きかけの原稿を少しずつ放出していくことにします。

一ヶ月半前の読書会で取り上げた文献を紹介するのを忘れていたので、今更ながらですが簡単にまとめておきます。あまり、うまくまとめらず出来は良くないのですが、まあ何も書かないよりはいいだろうということで、とりあえず載せておきます。

ちなみに研究会でのサブテキストは、Andrew Moravcsik, "De Gaulle Between Grain and Grandeur: the Political Economy of French EC Policy, 1958-1970 (Part1),(Part2)", Journal of Cold War Studies, 2(2)&(3), 2000. とそれに対するコメントでした。いつものことですが、読書会での議論が若干含まれています。

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Alan S. Milward, The European Rescue of the Nation-State, 2nd Edition, (London: Routledge, 2000)

<はじめに>

 日本におけるヨーロッパ統合研究は、故鴨武彦の一連の研究を除けば、もっぱら現状分析を中心に進められてきた。しかし、近年徐々にではあるが、「ヨーロッパ統合史」と呼ばれる分野が形成されつつある。各国の一次資料を利用することによって、旧来のともすると理想主義的な研究とは一線を画し、冷戦などの同時代的な潮流を視野に入れ、かつマルチ・アーカイヴァルなアプローチを取っている点がこの研究分野の特徴として挙げられる。
 こうした日本における統合史研究は2000年代も半ばになってから本格化した感があるが、ヨーロッパでは既に各国における一次資料開示の進展に伴って既に80年代から本格的な統合史研究が行われるようになっていた。後述するように論争的なスタイルを取っているため必ずしも統合史研究のスタンダードというわけではないが、1992年の初版刊行以来、本書は統合史研究における必読文献の地位を占める一冊である。
 以下では、ごく簡単に概要を紹介するとともに、他分野を研究する立場からの若干のコメント及び疑問点を提示することにしたい。

<概要>

 本書は、従来のヨーロッパ統合に関する諸研究に対する徹底した批判的な検討から始まる。「ヨーロッパの聖人達」を中心に据えた研究や機能主義に基づく統合プロセスの説明といった従来の研究を、著者は徹底的に批判し、ヨーロッパ統合とは、各国それぞれの戦略に基づく戦後国家の経済成長と福祉国家発展の不可欠な要素として存在したと喝破する。つまりヨーロッパ統合と国民国家は相反するものではなく、相互に補完し合う関係にあったというのが著者の中心的な主張であり、この点が第1章及び第2章で概説される。
 続く第3章から第5章は、それぞれECSC創設、EEC創設ドイツ貿易、共通農業政策(CAP)が、それぞれ検討される。第3章ではベルギーの石炭産業が、第4章では各国(とりわけオランダ)にとっての対独貿易の果たした役割、第5章ではフランスにおける食糧自給問題が、それぞれ中心的に取り上げられている。詳細な統計データを用いており、細かな数字を挙げての論証は経済史家として研究生活をスタートさせた著者ならではのものであろう。
 第5章までのケース・スタディを踏まえて置かれている第6章では、「ヨーロッパの聖人たち」が取り上げられるが、実際に統合に役割を果たしたとして評価されているのは、オランダ外相のベイアンといった通常はあまり馴染みのない人物である。既存の研究やイメージに対する批判を意識したためか、第6章の叙述は全体としてややバランスを欠いている印象は拭えない。

※本書の第一版は以上の全6章から構成されており、再版に際して第7章としてイギリスのケースが加えられたが、本書全体の議論は修正されていないので、ここでは割愛する。

<評価>

 本書の意義やその後の研究への影響を考えるためには、本書以前の研究がいかなる潮流にあったのかを正確に理解する必要があるのだろう。上述のように本書の叙述スタイルは極めて論争的なものであるのは、本書がそれ以前の研究への強烈なアンチテーゼとなるように意図されているからと考えられる。しかしながら、こうした作業は他分野を研究する評者には手に余るものであり、以下では本書の議論に即してその意義及び問題点について簡単に触れることにする(なお本書を含めたヨーロッパ統合史研究の研究史を概観し、その課題を検討した邦語文献として、川嶋周一「比較・関係・制度――国家を超える政治構造の歴史をいかに記述するか――」『創文』2009年1・2月号)。

 本書の意義は、何よりも従来の「ヨーロッパの聖人」達による理想主義的な共同体構築というイメージを、アーカイヴァル・ワークに基づく徹底した実証によって脱神話化したことにある。読書会での発表者の紹介によれば、この脱神話化に加えて、国際政治理論における新機能主義に基づいて「連邦」への道として統合を捉える目的論的な歴史観、国内政治への目配りに乏しい外交史などへの批判が本書及び著者の前著The Reconstruction of Western Europe,1945-1952 に共通するものとして挙げられるという。こうした様々な批判を含んだ本書は、当然のことながら大きな反響を呼んだ。本書をめぐる議論が果たして生産的であったか否かについては議論が分かれるとしても、ヨーロッパ統合史を考える上で、本書が外すことの出来ない最も重要な一冊であることは間違いないだろう。

 その筆致の激しさと研究史的な位置から、ヨーロッパ統合研究の国家中心主義者、修正主義者として批判的に取り上げられることもあるミルワードだが、冷静に本書を読み進めていけば、主張する議論の実質的な部分は穏当なものである。「国民国家のヨーロッパ的救済」という著者の主張そのものは、国家か超国家かという二項対立を助長するものではなく、むしろそれを克服する要素を持つものとも言えるのではないだろうか。
 読み手がどのような立場だとしても、福祉国家という戦後ヨーロッパの国民国家に課せられた課題とその背景にある社会経済的な要素を重視したミルワードの綿密な分析は説得力を持って迫ってくる。しかしながら、本書で取り上げた事例はいずれもその局面で重要な意味を持つものではあるが、必ずしもバランスが取れた網羅的なものだとは言い切れないのではないだろうか。ベルギーの石炭産業に関する分析はやや極端な例かもしれないが、著者の「各国民国家は一国の枠内では解決できない問題をヨーロッパ統合を進めることによって救済した」という主張にとって都合のいい事例が取り上げられている印象が残ることは否めない。

 以上は、本書の枠内からの批判的なコメントだが、少し本書の文脈を離れて考えてくると見えてくるものがある。それは、本書が、決定論的ないしは経済中心主義的な傾向を強く持っていることである。確かに著者が強調するように、第二次大戦後のヨーロッパ諸国にはある種の戦後合意が存在し、それに基づいて各国の福祉国家化が進んだことは間違いないだろう。しかし、そうした各国政府への(経済的な)要請を所与として議論を進めていくことに問題がある。
 各国政府にとっては、直接間接のソ連の脅威、すなわち迫りくる冷戦の影こそがもっとも重要な問題だったのではないだろうか。冷戦の特徴的な点は、ソ連の軍事的な脅威のみならず、各国共産党を通して国内にも反体制的な勢力を抱えたことにある。それゆえ、各国は対外政策のみならず、社会経済政策を立案する際にも、国内政治過程に様々な気を配る必要があるとともに、共産主義に比して魅力的な資本主義社会像を提示する必要に迫られたのである。本書の叙述では、こうした「政治」がほとんど捨象されてしまっている。
 このように考えれば、ヨーロッパ統合史の文脈で本書が抱える最大の問題は、「政治」の契機の乏しさにあると言えよう。

at 12:43│Comments(7)本の話 

この記事へのコメント

1. Posted by もちづき   2009年05月15日 21:52
これ読みたかったんです!でも今アマゾンで見たんですが、5000円もするんですね・・・w
2. Posted by 管理人   2009年05月16日 10:02
まとまったない雑文で申し訳ないw
この本は、経済史的に書いている部分が細かすぎる上に面白くないんだよ。俺は未読なんだけど、ミルワードの議論を読みたいなら2005年に出したPolitics and economics in the history of the European Unionの方がいいらしい。
3. Posted by もちづき   2009年05月16日 10:10
いえいえとてもわかりやすかったです。しかしその新しい本は2万円ですねw 図書館でチェックしてみます。情報ありがとうございます。
あと報告遅れましたが一次は通りました!
4. Posted by miumiu バッグ アウトレット   2014年08月26日 16:43
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