2008年12月07日

本の話。

昨日「数日は研究を忘れて…」と書いたのですが、結局今日も大学に来てしまいました。

木曜の発表準備を終わらせて明日&明後日はゆっくり過ごそう、というつもりだったのですが、集中力が途切れがちなので発表準備は今日中に終わりそうにありません。

aeed4d77.jpg

そんなわけで、先ほどコーヒーを淹れて『カンバセイション・ピース』を読み始めてしまったのですが、大学院棟で小説を読むのは何かが間違っているような気がするので、今日はもうこれで切り上げることにします。

この数年、小説から離れて久しい時のリハビリにはなぜかいつも保坂和志を読んでいるような気がします。フワッとかわいた感じの、それでいて人間味がある会話が続く心地良さが、過剰な情報が詰め込まれた研究書や学術論文に染まった頭をきれいにしてくれるのでしょうか。



f883984f.jpg

一仕事を済ませた後に真っ先に読み終えたのが、塩川伸明『民族とネイション ――ナショナリズムという難問』(岩波新書)です。昨日ある友人も言っていたのですが、塩川先生のスタイルはいくつかの議論を挙げてそれらを退けた上での中庸を落とし所として提示する傾向があるように思います(もちろん実証研究の場合は、より踏み込んだ見解を示しているものも多いわけですが)。

ネイションやエスニシティ、ナショナリズムの問題はまさにラビリンスで、少し考えだすと迷ってなかなか抜け出すことが出来ない難問です。ベネディクト・アンダーソンやアンソニー・スミスらの定評ある研究書は邦訳が揃っているのですが、それらをバランス良く咀嚼したものは案外少ないので、本書が刊行されたことは門外漢の自分にとっても実に有難いことです。

本書は、第1章で概念や用語法について過不足なくまとめた上で、各地域におけるナショナリズム・ネイションの歴史的展開を続く三つの章で概説し、最後の第5章で「難問としてのナショナリズム」を考える手がかりを示しています。個人的には歴史的な展開を踏まえた上で書かれた第4章「冷戦後の世界」が一番読み応えがありました。やはり冷戦後の世界を考えるためにこそ、それ以前の歴史的展開が重要だと再確認しました。

初学者から専門家まで幅広い読者が読みうる新書のお手本というべき本だと思います。細かいところでより考えてみたい部分もあるのですが、それは自分の手には余るので、ひとまずこれくらいで。



この年末は「戦後日本」に関して重要な著作が相次いで刊行されるようです。

後輩のブログでも紹介されていましたが、福永文夫先生が中公新書から『大平正芳』を出されるそうです(リンク)。ちなみに副題は「「戦後保守」とは何か」。本書は、出る出ると10年近く前からアナウンスされながら、なかなか研究成果が表に出てこない例の宏池会科研費研究の延長にあると思われます。戦後日本政治を考える上で、宏池会はもっと深く研究がされて然るべき対象です。これは月末に出るようなので、年末年始に読みたいと思います。

2d6e49ca.jpg
7f9bd2da.jpg

吉川弘文館から刊行された『人物で読む現代日本外交史』は、若手の外交史家による共著で、戦中から現代までの主要な「外政家」を取り上げたものです。イメージとしては、渡邉昭夫先生がまとめられた『戦後日本の宰相たち』(中公文庫)と御厨貴先生がまとめられた『歴代首相物語』(新書館)の外交版といったところになるのでしょうか。もっとも執筆陣に注目すれば、『歴代日本の宰相たち』はかなり大物を揃え、『歴代首相物語』はポスドクが中心ということを考えると、本書はパワフルで油が乗った30代半ばから40代の若手研究者を集めている点が異なるのかもしれません。

プロローグにも書かれているように、戦中は外相も取り上げられるのですが、戦後期の登場人物は全て首相です。これは現代外交の一つの特徴なのかも知れません。実際に資料を読んで研究している者としては、戦後日本外交を首相のリーダーシップという点のみから説明することは難しいと思うわけですが、それでもこういった形で研究が積み重ねられる必要性が高いことは言うまでもありません。ちなみに姉妹編となる『人物で読む近代日本外交史』は年末刊行とのこと。

c773ed7a.jpg

まだ手に入れていないのですが、著者と題名と目次を見ただけグッとくるのが、中北浩爾『日本労働政治の国際関係史1945-1964』(岩波書店)です。1998年刊行の『経済復興と戦後政治』(東京大学出版会)、2002年刊行の『一九五五年体制の成立』(東京大学出版会)に続く、著者三冊目の研究書となる本書は、これまでに刊行された本書に繋がる研究を読む限り、これまでの二冊と同様に斬新なアプローチと徹底した実証を兼ね備えた本格的な研究であることは間違いないと思います。出版社のHPの紹介(リンク)だけで興奮するのは自分だけかもしれませんが…。

既に論文で公刊したものをまとめて一冊の本とする場合、「論文集」的な色彩が強くなってしまうことはままあります。もちろん面白い「論文集」もあるわけで、それはそれでいいのですが、本書は目次を見ただけで「論文集」ではなく一冊の研究書として書かれていることが一目瞭然です。それにしても、この分野の研究者で10年で三冊の研究書を出すことが出来るのは著者以外にはいないのではないでしょうか。

これまでの著作では禁欲的だった著者のメッセージ(=社会民主主義という選択肢?)が本書には書かれているような気がするので、今から読むのが楽しみです。出来る限り早く手に入れてじっくり読みたいと思います。

23df70fb.jpg

半年ほど前に『米軍再編の政治学』(日本経済新聞社)が、英語版刊行直後に邦訳されたばかりなのですが、早くも新著が出ました。ケント・E・カルダー『日米同盟の静かなる危機』。こちらは英語版(Pacific Alliance: Reviving U.S.-Japan Relations)よりも先の出版のようです。この数年に刊行された「日本研究者」の著作は、個人的にはどれも「外れ」ばかりだったのですが、この本はどうなのでしょうか。

at 18:46│Comments(0)本の話 

コメントする

名前
URL
 
  絵文字