波多野澄雄、佐藤晋『現代日本の東南アジア政策』(早稲田大学出版部)飯尾潤『政局から政策へ』(NTT出版)

2008年03月16日

嬉しいが深刻な誤算。

ここ数日、春らしい暖かい日が続いている。バイト先の梅が見頃を迎え、自宅前の桜も徐々に咲き始めた。身体が花粉症に慣れてきたらしく、症状のピークも過ぎたので、久しぶりに穏やかな気持ちで過ごしている。一日ボーっと梅や桜を見ながら本(とビール)を片手に過ごしたいところであるが、目の前にやるべきことが山積しているため、なかなかそうもいかない。

というのも、論文執筆後に新たに公開された文書の山が、嬉しいのだがなかなか難儀なのだ。情報公開担当者がかなりいい仕事をしてくれたため、よく整理された文書一式が公開されたのだが、これを既に公開された文書と照らし合わせながら再整理していく作業は骨が折れる。まだ詳しく全ての内容を見たわけではないが、パッと見た印象でも論文の細かい部分の修正が必要なことが分かる。新たに開示された文書が、資料不足のため誤魔化していた部分や、薄く書かざるを得なかった部分をカバーしているからだ。

ただでさえダラダラと長く書いてしまった論文なので、これ以上またダラダラと書き加えるわけにはいかない。ひとまずは、発表に向けて短めの原稿を書きながら反映させていくのがいいのだろうか。新しい時代を扱っていると、こういった、嬉しいのだが実際の対応にやや困る事態が発生してくる。本当はそれではいけないのだろうが、じっくりと資料を読み込む歴史研究をしているというよりは、自転車操業で情報を整理して流す報道機関に近いイメージだ(時間の流れは全然違うが)。

歴史研究として新しい時代を扱っている以上、資料の網羅性に汲々とするのではなく、自分の立てた問題設定に答えることが研究の目的だと割り切っている。なので、新たに資料が公開されたからといって、わーわー騒ぐつもりはないのだが、最低限公開された一次資料に目は通さなくてはならない。実証面での満足度を高めることと、実際の手間暇の費用対効果を考えながら研究を進めるのは、言うは易しだが行うとなるとそのバランスが難しい。



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就寝前や移動中、休憩時間を使って、昨日購入した『政局から政策へ』を読んでいる。まだ半分も読んでいないのだが、同時代史としてのバランスの良さを感じる。ところどころに出てくる内政研究者から見た日本外交の見方のようなものが興味深い(一部に認識の明らかな誤りはあるが)。色々な意味で考えさせられた一文を紹介しておきたい。この文章は、冷戦終結以前の国際環境の中での日本の政策環境について論じている一文だが、受け取り方は人それぞれだと思う。引用にとどめて特に論評はしないが、とにかく考えさせられる。

 ……極端に言えば、当時の日本はアメリカだけ見ていれば外交ができたのである。その枠内において、東南アジア外交を独自の視点から進めるぐらいのことはできる。しかし、そうした外交は、「福田ドクトリン」の中身が、ほとんど知られていないように、一般の人々にとっては、あまり関係のないものとして、首相や外務省だけが、推進することができるような周辺的な課題になっていた。
 たとえば「全方位外交」といっても、アメリカとの関係は大原則になっているので、やや虚偽意識的なことになり、相手方が誤解していまうようなこともある。石油危機のころに、日本がアラブ産油国側につくというのは、アメリカとは違う独自外交ではあるが、逆に中東では、日本の立場がほとんど理解されていないから通用するという側面もあった。後にイラク戦争の戦後処理に自衛隊を派遣することになったとき、日本がアメリカについたことで、アラブの支持を失うという評論も見られた。これが本当だとすると、日米が同盟関係にあることすら、アラブではよく知られていないということを、裏側から示すような事例である。
 そのなかで、民衆レベルでは、たとえば日中国交回復後の、中国ブームのようなことが起こっている。ただこれも、キッシンジャーの電撃訪中によって、米中国交回復があり[ママ]、それを前提にした大状況のなかで起こったことである。その大枠はアメリカが認めているからこその展開で、それに気づく国民が少ないというのは、外交慣れしていない戦後日本の状況を裏づける。
 むしろ七〇年代以降の、日米貿易摩擦が、本当の外交ではないかと見られるかもしれないが、アメリカの要求をいかに値切るかというのが、日本側の基本的な姿勢であり、貿易構造の枠組みを動かしていこうといった大がかりな外交を展開していたわけではなかった。
 結局、戦後の国際環境は、日本の位置を固定化しており、日本がその枠内で動く分には、深刻なジレンマを経験することがなかった。またそれを超えて、国際的な枠組みを構築していこうという意欲も、また能力もないというのが日本政治の現実であった。その意味では、外交問題が大きな政治的問題になりにくい状況が、自民党体制を支えていたという側面があるといえよう。(51-52頁)


at 17:09│Comments(2) 本の話 

この記事へのコメント

1. Posted by りんむー   2008年03月16日 21:31
引用中の[ママ]がいいね。
もちろん正確には・・・
2. Posted by 管理人   2008年03月17日 18:09
こういう細かい所に気が付く自分が嫌ですね(笑)もっとも、自分が書く文章は誤字脱字だらけなのですが…。
今日の記事にも書きましたが、[ママ]が必要な箇所や外交について言及している所に違和感がないわけでもないですが、全体として非常にいい本でした。日本外交で同じ水準の同時代史が出れば嬉しいですね。

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波多野澄雄、佐藤晋『現代日本の東南アジア政策』(早稲田大学出版部)飯尾潤『政局から政策へ』(NTT出版)