2007年11月05日

「シリーズ国際関係論」

国際政治「学」の本の話。

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東京大学出版会から刊行中の「シリーズ国際関係論」(全5巻)。同じ東京大学出版会から出ている「講座国際政治」や「国際政治講座」のような論文集ではなく、「現代政治学叢書」「社会科学の理論とモデル」に近いシリーズだ(ちなみに、東大出版のシリーズ物は未刊が数冊出ることが多いのだが、このシリーズは無事完結しそうだ)。

ちょうど国際政治理論の確認をしたかったこともあり、毎月新刊が出るごとに買って読んでいる。こういったシリーズの常だが、各巻によってやっぱりコンセプトが微妙に違っているな、という印象だ。編者の紹介では、「『シリーズ国際関係論』は、国際関係論の成果を総合することによって、……古くて新しい課題に挑戦するものである」(各巻の?頁)ということなのだが…。

これまで出ているのは、『国際社会の秩序』『平和と安全保障』『国際政治経済』の三冊。どの巻にも共通しているのは、古典的な研究と最新の研究成果をバランス良く盛り込んで紹介していることだ。また平易な文章と豊富な事例紹介によって、複雑な内容も分かりやすく読むことができる。長さも適度であり、教科書として読むにはよいシリーズではないだろうか。

ここまではいいのだが、残念なことにこの先のコンセプトがいまいち不明確なのだ。各章をテーマごとに分け、古典的研究と最新の研究を織り交ぜつつ紹介することは共通している。しかし、肝心の部分が各巻で全く異なっている。それは、本全体の位置づけだ。

『国際社会の秩序』は、「はじめに」で明らかにされるように、国際秩序を成り立たせる価値規範を取り上げている。第1章「国際社会という問題」が総論的に置かれ、並列的に置かれる各章とは違った大きな視点を示している。その上で各章が構成されているのだが、各章の議論も、代表的な論者の紹介だけでなく、それぞれの議論に対する著者の見方が明示されているし、「おわりに」では、「本書がたどりつくことができる結論があるとすれば、それは次のようなものであろう。われわれが生きるこの国際社会には、秩序がある。その秩序の仕組みは、幾つかの秩序構成価値規範を見ることによって、描き出すことができる。しかしその仕組みとは、常に変化しているようなものであり、描き出した瞬間に姿を変えてしまうようなものである。だがそれにもかかわらず、否、それだからこそ、われわれは国際社会の秩序というものに、時には思いを寄せてみるべきである。なぜならわれわれは、その変容する国際社会の秩序の中で、生きており、今後も生き続けていくからである」(237頁)と控えめながら明確な結論が述べられている。これは、本書が政治思想史的な側面を重視したことによるのかもしれない。なお、著者の政治思想史研究に対する造詣の深さも本書の大きな魅力の一つである。『国際社会の秩序』は、教科書としても読めるが、著者の問題意識が明確に示され、さらに全体を通しての結論もあり、研究者にとっても読み応えのある本となっている。

『平和と安全保障』には、「はじめに」ではなく「序章」が置かれている。序章では、現代の複雑化する国際安全保障問題について紹介するとともに、現実主義、制度主義、自由主義という三つの理論的枠組みを示し、それぞれ第?部「権力による平和」、第?部「制度による平和」、第?部「自由と民主主義による平和」で論じられている。「三つの国際関係理論を知的羅針盤として用いて複雑化した現代安全保障問題を分析しながら、各理論に包含されている平和創造装置の実効性と問題性を検証すること」(12頁)が本書の目的として提示されている。とはいえ、本書の各部の議論は並列的に並べられているだけで、それを横断的、統合的に論じているようには感じられてなかった。終章「安定的平和と現代国際秩序の狭間」では、各部の議論を踏まえて著者の見方が提示されている。しかし、この終章において、唐突に「国際秩序」というキーワードを提示し、それが「国際平和を脅かすリスクに対して国々が採る行動の相互作用によって、規範というかたちで形成される」(201頁)ものと構成主義的な観点から定義され、さらに「一般的に、国際秩序は、現実主義、制度主義、自由主義の規範の緊張関係のうえに成り立っている。しかしながら、時代の推移とともに、国際秩序の枢要な規範は、現実主義から制度主義そして自由主義へと前進と後退を繰り返しながらゆっくりと推移してきた」(同上)と表明されていることには違和感を禁じえない。各章ではバランス良く様々な研究を紹介しているだけに、なぜ終章で唐突にこういった議論が出てくるのかがよく分からないのだ。「はじめに」に対応した「おわりに」ではない「終章」だからだろうか。結論的に構成主義的な視点を提示するならば、本論部分でその検討をすべきであろう。本書の結論部分に高い点数はつけ難いが、各章は非常にバランス良く読者にとって非常に有益である。

『国際政治経済』の目的は「主に大学生および大学院生を対象に、IPE理論をわかりやすく紹介し、解説すること」(3頁)である。自分の研究対象と関係があることもあり、読んでいて色々と参考になったが、本書は「IPE理論を紹介する教科書」以上でも以下でもなく、当然ながら議論のまとめをする「おわりに」も「終章」もない。各章のおわりに、「本章の要点」が箇条書きで置かれているのは、受験勉強のためだろうか(何の?)。

だだだっと紹介してきたが(一気に書いたので悪文だが)、どの巻もそれぞれの章はバランス良く様々な議論を紹介している点は共通している。とはいえ、本全体として見た時の出来には大きな違いがある。どの本をどのように評価しているかは、改めて書くまでもないだろう。

ともあれ、今月刊の『国家の対外行動』、来月刊の『国際関係論の系譜』も楽しみだ。「教科書やカタログ的には使えても一冊の本として読み返す気が起きない」本ではないといいのだが。

at 21:50│Comments(0)本の話 

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