2007年06月24日

碩学の仕事。

研究を進めていくと、ぶつかるのが優れた概説書や通史の壁である。そんなことを実感し、それを乗り越えるべく、一次資料や当時の議論を読み直す必要性を痛感している今日この頃である。

そうであればすぐそれを実行すればいいのであるが、まずは目の前の課題などを片付けておきたいということもあって、先送りになってしまっている。

で、課題をこなしつつ何をやっているのかというと、他分野/隣接分野の通史的な研究や概説書を少しずつ読んだり、外国人が書いた日本に関する通史的な研究(The Clash, Empire in Eclipse, US-Japan Alliance Diplomacy, Regime Shift, Japan's Postwar Party Politics, …etc.)をぱらぱら読んだりしている。

アプローチや問題関心が異なっているのでいい気分転換にもなるのだが、実際のところあまりしっくりこないという面も確かにあり、やや物足りないというのもまた事実なのだ。しかし今日読んだ本(中村隆英『昭和経済史』岩波現代文庫)は例外的に面白かった。

2f417089.jpg

『昭和経済史』は1986年に出版されたもので、つい先ごろ岩波現代文庫で再刊されたものである。この本の何より優れている点は、そのバランスの良さと分かりやすさである。これは本書が著者の講義録をまとめる形で書かれていることによるものであろう。ちなみに本書は話し言葉で書かれている。

昭和という時代は本当に極端な時代である。昭和恐慌に始まり、戦争・敗戦・占領を経験し、その後は高度経済成長を遂げる、しかしその高度成長も石油危機によって終焉し、古典的な経済が復活する時代を迎える。このような極端に触れた昭和経済史をコンパクトかつ明快に本書は描いている。研究書ではなく概説書であるが、むしろ他分野を学ぶものにとっては分かりやすくていい。

バランスの良さということは概説書にとって非常に重要である。とかく学者のは研究的意義を強調したがるため、概説書であってもバランスに欠けるものが少なくない。とりわけ経済や政治については、その政策に対する評価と記述のトーンが結びついてしまうことが多い。例えば「独占資本」「逆コース」という言葉は日本経済史の説明として一般的に用いられているが、これらの言葉には一定の「評価」や「立場」が反映されている。本書は、このような言葉を用いず、かといって政府からのみの視点ではなく昭和経済をバランスよく俯瞰しているのである。

本書では、結論的に世界経済と日本経済の結びつきが強調されている。だからといって、著者の描く昭和経済史像は決定論てきなものではない。その時々の政策もまた丹念に分析されている。

本書は再刊にあたって大きな改定に行われておらず、この20年間の研究蓄積は踏まえられていない。このような本書を日本経済史の専門家がどのように読むのかは分からないが、少なくとも他分野を学ぶものにとって優れた概説書であることは間違いないだろう。

at 23:11│Comments(2)本の話 

この記事へのコメント

1. Posted by りんむー   2007年06月28日 11:25
僕は昔の版を持ってます。
最近読んだんだけど飯田経夫他『現代日本経済史』(上下)筑摩書房、1976、1978年もお勧め。山本満氏も書いてるよ。
2. Posted by 管理人   2007年06月30日 12:02
『現代日本経済史』は図書館旧館で巡り合った思い出があります。この分野の問題は最近の研究の方がなぜかイデオロギー色が強いということと、資料はそれなりにあるはずなのに実証的な研究が1960年代半ばくらいまで止まってしまっているということですね。

コメントする

名前
URL
 
  絵文字