2007年04月27日

4月29日。

この授業が終われば、授業は十連休。最近は、色々な課題が頭の中を錯綜していたので、ひとまず無事に全ての課題が終わったのが素直にうれしい。

いつもどおり、授業用のコメントを基に書評をしておく。ただし、これまで授業で取り上げていた博士論文ベースの研究書ではなく、今日読んだのは論文集だ。そんなわけで、授業時のコメントからは大幅に変更してあります。

麻田貞雄『両大戦間の日米関係』(東京大学出版会)
 本書は、著名な外交史研究者である麻田貞雄氏の唯一の単著である。しかしながら本書は博士論文を基にした類の研究書ではなく、既発表の研究論文をまとめた論文集である。「あとがき」にある著者の言葉を借りれば、本書は「両大戦間の日米関係に関する論文を中心に、一九六五年から八四年の二〇年間に発表した七編を選んで収録」(365頁)し、さらにその上で加筆修正を加えて一冊にまとめられたものである。収録されている論文も、マハンの思想的影響について論じたものが一本、海軍を中心とした政策過程や日米関係を論じたものが四本、移民や文化や相互イメージに注目して日米関係を論じたものが二本、とバラエティに富んでいる。
 本書の何よりの特徴は、この「論文集」という点にあるといえるだろう。両大戦間を中心とした日米関係をそれも海軍を中心に見ている点は、本書に収録されている論文全体に流れている問題意識であるといえるだろう。しかし本書では、それを一つの序論において統一的に整理するようなことは行われていない。この点について著者は「本書が方法論の点で統一を欠くことを認めるにやぶさかでないが、私はむしろ、多様なアプローチや手法こそ、この論文集の存在理由ではなかろうかと考えている」(367-368頁)と述べている。確かにこの点は重要である。両大戦間期の日米関係を見るのでも、実に多様なアプローチや視角があることが本書からは明らかにされる。つまり統一的な一つの視角は、あくまで本書の各章で書かれているような様々なアプローチの一つから「選び取られた」ものに過ぎないのである。一つの視角を設定すれば当然そこから見えないものも出てくる。この点は読者にとっては重要な示唆を与えてくれるだろう。とはいえ、多くのアプローチを試みた著者が最終的にこの時代の日米関係をどのように捉えていたのかについて序章もしくは終章のような形でまとめているものがあっても良かったのではないだろうか。
 もう一つの本書の特徴はその読みやすさである。様々なアプローチを試みながらも、史料に基づいて個人に焦点を当てるという姿勢は本書においてほぼ一貫している。それはマハンの思想伝播を論じた第一章にしても、日米の相互イメージを論じた第七章においても一貫しているといっていいだろう。様々な意味ではあれ、読者の印象に強く残る登場人物が各章に存在している。そして、各章末では外交史の論文としては珍しく、論文の結論が明確に述べられており、この点も読みやすさに寄与しているといえるだろう。しかし、この練達の文章によって逆に見えにくくなってしまっている部分もある。例えば、各章の細かいアプローチの違いである。例えば、第四章と第五章は時系列的には連続的に日本海軍の対米政策を論じており、一つの「物語」のように読み進めることが出来る。しかし注意深く読めば、第四章は軍縮問題を中心に論じているのに対して第五章は海軍内の派閥対立を中心に論じており、各章の着目点は異なっているのである。しかし読みやす過ぎることによって(または物語として練られてしまっていることによって)、これらの点がやや見えにくくなってしまっている。
 本書が出版されたのは一九九三年であり、既に出版からは十五年近くの時が経っている。さらにいえば、本書に収録された各論文の初出は前述のように一九六五年から一九八四年である。結果として、本書の知見が既に新たな研究によって塗り替えられた部分もある。とりわけ開戦過程における海軍の役割やワシントン会議については、森山優、相澤淳、服部龍二らの研究が重要であろう。しかし重要なのは、これらの研究が本書に収録された各論文の後に続いた研究であるということである。著者の研究によって、実証的な海軍研究や海軍をアクターの一つに入れた外交史研究が可能になったのだ。このような点からも、本書の古典的な性格が明らかになるだろう。
 本書に限らず、文章のうまさや深さといった点については、世代による差を感じずにはいられない。その外国語能力や古典に対する知識といった点で、我々の世代との違いを強く感じてしまう。

at 23:37│Comments(0)本の話 

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