2007年03月26日

回顧録の話。

こういうタイトルを付けて、その文章を読みたいと思う人はどれくらいいるのだろうか。政治家の回顧録だけを取り上げた本がそれなりに売れて文庫化されるくらいだから、それなりにはいるのだろうか。でも、大学生くらいの年頃では本当に限られるんだろう。いるとしても権力志向の強い人か、変態のどちらかなんだろうなー、当然俺は後者ということか。

今日は回顧録を一冊紹介します。

回顧録やオーラル・ヒストリーを読むのが、研究や趣味を越えてライフ・ワークになりつつある。ゴミみたいな、現役政治家の活動報告みたいなものは読まないが、昔活躍していた政治家や外交官の回顧録を古本屋などで見つけるとついつい内容も見ずに買ってしまう。この本は、ある後輩が買ってきてくれた一冊だ。

東郷文彦『日米外交三十年』(中公文庫)
 日本の官僚の回顧録は、淡々と事実を書き連ねているので文章として退屈か、過度に自分の功績を誇っていてちょっと視線を背けたくなるか、もしくは毒にも薬にもならないようなものか、この三つの場合が多い。この類型の中に当てはめるとしたら本書は最初のものに当てはまる。しかし、淡々としたやや退屈な文章ながら本書の内容は実に興味深いものがある。本書の著者は第二次大戦直前に外務省に入省し、その後外務審議官、外務事務次官、駐アメリカ大使などの要職を歴任した東郷文彦である。その岳父は、開戦時と終戦時に外務大臣を務めた東郷茂徳であり、その下で秘書官などを著者は務めていた。
 本書は1945年8月15日の敗戦から筆が起こされ、憲法・講和などについて簡単に触れた後、著者が安保課長として関わった安保改定、アメリカ局長として中心的な役割を果たした沖縄返還、そしてその後の外務次官時代、駐アメリカ大使時代の出来事をほぼ時系列に沿って振り返っている。戦後日本外交の中枢部に常に身を置き続けた著者の回顧は、淡々としながらもその内容面で読むものに迫ってくるものがある。既に出版から25年が経過しており、本書で触れられている安保改定や沖縄返還については、その後の研究等で詳細が明らかになったことが多い。そういった事情を踏まえて本書を読むとなかなか複雑な気持ちになる部分も少なくない。例えば沖縄返還の際の密使の存在について、本書は次のように書いている。

…『ホワイトハウス・イヤーズ』によれば、総理とキッシンジャー補佐官との間に連絡者があったことになっている。もし本当にそうであったとしでも、私はあの当時のことを考えて総理に含むところは全くなく、それなら総理の生前に「総理も人が悪いですな」と一言笑って申し上げたかったなと思うだけである。

密使については、キッシンジャーの回顧録だけでなく、後には密使本人によりその存在が明らかにされた(『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』)ことは周知の通りである。この事実からは外務省の担当局長にも伝えずに密使を用いる政治家の凄さが伝わってくる。この沖縄返還時のエピソードの他にも、小笠原諸島返還時の星条旗をめぐる逸話など、興味深いエピソードが本書にはいくつか紹介されている。

at 23:19│Comments(0)本の話 

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