2006年08月28日

レポートに追われながら。

月末までに提出のレポートが1本あり、ここ数日はレポート執筆のために先行研究を色々と読み返している。そんな中で、一度読み始めるとついつい最後まで読んでしまう本もある。そのうちの1冊を紹介。

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中北浩爾『一九五五年体制の成立』(東京大学出版会)
 日本の戦後政治を特徴付けたものが一九五五年体制(以下、五五年体制、と略記)であることに異論は無いであろう。五五年体制という概念は、1964年に政治史学者の升味準之輔が雑誌論文で発表したものである。すなわち五五年体制とは、形式的には自民党と社会党による二大政党制、実質的には自民党の一党優位制を意味するものである(2頁)。五五年体制は、1993年の自民党の下野とその後の社会党の事実上の消滅によって崩壊するのであるが、今日に至るまで五五年体制という言葉は戦後政治を説明する際に広く用いられている。本書は、五五年体制の成立という戦後政治の最も重要な局面を正面から取り上げて分析している。
 資料の問題もあったのだろうが、これまで戦後を対象とした外交史と比べて政治史の数は限られていた。このような状況の中で、非常に重要な五五年体制の成立過程を政治史として明らかにしたということだけでも、研究上の意味は大きいものである。しかし、本書の評価はそこにとどまるものではないであろう。本書は政治史としてだけではなく、日本政治外交史の傑作である。本書は、朝鮮戦争の休戦とそれに続くインドシナ紛争の休戦に伴う国際的な緊張緩和と、日本にとって最も重要な二国間関係であった日米関係を踏まえ、それらと関連付けながら五十五年体制成立に至る国内政治を分析することによって、立体的な政治外交史となっている。
 本書が何よりも優れているのは、以上の評価からもその一端を伺うことができる分析視角の秀逸さであろう。ここでは具体的な内容に関する紹介は割愛し、分析視角(9~12頁)に絞って紹介することにしよう。本書は第一に、防衛政策とともに、外交政策と経済政策を分析し、それらをより重視している。防衛政策の観点からの分析に偏りがちであった従来の研究に対して、本書が外交政策と経済政策および、諸政策間の相互連関を重視するということである。第二に、政党政治に加えてその周囲にあってそれに影響を与えるファクター(国際関係、経済団体および労働団体)を分析対象としている。これは、五五年体制を単なる政党制としではなく、文字通り政治体制として意味づけることに繋がるものである。第三に、保革対立を冷戦に与する勢力と冷戦に抗する勢力の対立と評価し分析している。著者は、 前著『経済復興と戦後政治』では社会党を分析対象の主軸としていたが、それがこのような本書にもうまく生かされているといえるだろう。
 以上の三点を視角に五五年体制の成立過程を分析している本書の記述は当然ながら多岐に渡るものであり、読み手にも学際的な素養が試される。結果として、国際環境の変容、予算編成をめぐる攻防、労資関係、政党再編をめぐる動きなどが多層的に折り重なる「物語」になっているため読みやすさという点では欠けるところがある。また論理的な説明を行うためか、時系列が前後する箇所も散見される。もっとも、やや読みにくいという点は重層的な視角であるがゆえの仕方が無いといえるかもしれない。むしろ、複雑な構成にもかかわらず本書全体を通してはその問題意識が一貫していることを積極的に評価すべきだろう。
 以上、本書の概略を分析視角を中心に紹介してきた。現在の日本政治外交史の1つの到達点であるといえる本書に内在的な疑問を呈することは非常に難しい。そこで最後に本書から見えてくる研究の展望を記しておきたい。本書は五五年体制の成立過程を政治外交史の観点から明らかにしたものである。まず考えられるのは五五年体制のその後であろう。五五年体制の定着、変容、崩壊といった過程はそれぞれ戦後政治の中で重要な意味を持つものである。また本書で描き出された五五年体制を前提として、その後の日本外交はどのように展開していったのだろうか。アジア外交や安全保障政策を中心に進みつつある戦後外交史研究と、本書の関係はどのように位置づけられるのだろうか。

at 23:51│Comments(0)本の話 

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