2006年08月24日

話題の本。

今日は本の紹介だけ。『国家の罠』以来の回顧録のベストセラーとなっている話題の本↓

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杉本信行『大地の咆哮』(PHP研究所)
 新聞各紙で相次いで書評が掲載されるなど話題になっている元上海総領事の回顧録。先週の朝日新聞にも書評が掲載されていた(リンク)。著者の杉本信行は、入省後に中国の研修を受けた、いわゆる「チャイナスクール」の外交官である。なかなか日中関係がうまく行かないこともあり、チャイナスクールに対する激しいバッシングが行われた時期があったが、本書からはそういった批判を吹き飛ばす著者の日中関係に関する想いが伝わってくる。
 本書は著者が病の床にある中で書き上げられたものである。本書はその内容で大きく2つに分けることが出来る。前半部分では語学研修時代から上海総領事時代までの外交官としての体験を回顧している。もちろん日中関係の機微に渡る事項は慎重に記述が避けられているのだが、文化大革命の末期に語学研修をし、さらにその後は日中平和友好条約交渉に関わり、また台湾での勤務も体験するなど、著者の外交官生活は非常に興味深いものであり、全体としては資料的な価値も大きいだろう。とりわけ台湾に関してはかなり踏み込んで記述が行われている印象がある。
 外交史研究者の立場から重要なのは前半部分なのだろうが、本書の中でより重要な一般的意味があるのは後半部分であろう。後半では著者の体験に基づいた中国観察が書かれている。本書の副題は「元上海総領事が見た中国」であるが、後半はまさにその副題どおりの内容である。本書の解説として、かつて著者の同僚であった岡本行夫が「この本は、日本政府の担当者が、中国の反応を気にせずに叙述した初めての試みでもある」と本書を評しているが、本書の中ではかなり辛辣に中国を批判的に捉えている部分もある。なぜか日本ではその中国観察は、中国に対する過大評価と過小評価の両極端に議論が収斂しがちである。本書はこのような議論とは大きく異なる。そしてその筆者の観察の根底にある想いは、よりよき日中関係のために、というものであろう。そんな筆者は、環境問題を中心にかなり劣悪な状態にある中国の姿を明らかにしながら、日本はそんな中国を地道に援助していく必要があると説く。そうやって中国を思いやりながらも、一方で台湾問題に関しては中国側の誤った認識を辛辣に批判している。
 ある書評で本書は、「全編を通して伝わってくるのは巨大な隣国との外交に体当たりで取り組んだ著者の熱情であり、経験に基づく知恵だ」、と評されている。まさにその通りの好著である。もっとも著者の議論を現在の日本国内の政治状況の中で取り扱おうとすれば、それはまた異論が出てくるかもしれない。例えば対中ODAの筆者に対する考えは現実の政治状況と一致するものではない。著者は本書の刊行後わずか1ヶ月あまりでこの世を去った。本書の提言をどう生かしていくかは、残された我々読者の仕事なのだろう。著者の冥福を祈る。

at 23:25│Comments(0)本の話 

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