2006年08月22日

休憩中の読書。

パソコンとの格闘はとにかく目が疲れる。そんな状況での逃避行動が読書というのはかなり異常だと思うが、それは大学院生の性というものだろう。小説や古典ではなく何となく研究に繋がりそうなものを選んでいる。

今日作業の合間に読んだのは↓。2年前に単行本が出たときは軽く立ち読みをしたのだが、今回文庫化を機にしっかり読んだ。多分、資料的価値は無いのだろうが、一気に読ませる筆力がある回顧録は個人的にかなり好きだ。

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岡本行夫『砂漠の戦争』(文春文庫)
 砂漠の戦争=イラク戦争である。著者は、イラク戦争時には内閣総理大臣補佐官として、日本外交の最前線に立っていた。本書は著者のイラク戦争をめぐる回想録である。とはいえ、本書は現役を退いた政治家や官僚が昔話をする類の書ではない。本書(単行本版)が出版されたのは2004年7月であり、自衛隊はイラクに派遣されその様子が大きく報道されている時期であった。このような時期には公にすることに制約がかかることも多く、またその戦後復興も緒に就いたばかりであり、ゆったりと回想をする時期でもない。それではなぜ本書が書かれたのかといえば、それは本書が、著者の職務上のパートナーであり友人であった奥克彦(2003年11月に同僚と共にテロリストに銃撃され死去)への鎮魂の書でもあるからだ。
 このような背景を持つ本書は通常の意味で読みやすい本ではない。「あとがき」の言葉をそのまま借りれば「この本には、「語り部」として奥のことを書いた部分、僕(岡本:引用者注)自身の回顧話、さらにはイラク事情の説明が並存」しているのである(367頁)。結果として本書は、時系列に沿って話が進むわけでもないし、各章が整然と分かれているわけでもない。しかし、その行間からはこの仕事にかけた著者の思い、そして志し半ばで去った奥への思いがひしひしと伝わってくる。
 本書は非常に「誠実」な本であると感じた。イラク戦争及びその戦後復興という現在進行形の出来事を扱い、また小泉政権も存続している以上、本書に書かれたことは現実に起こったことのごく一部であろうことは容易に想像が出来る。例えば本書の中では、官邸の中枢でイラク戦争を巡って行われたであろう議論はほぼ出てこないし、政策決定過程の機微に触れることも伏せられている。
 こういったことが関係しているのかは分からないが、本書を読んで考えさせられたのは、直接取り上げている日本のイラク戦争及び戦後復興への協力ではなく、実務家の生き方についてである。政策決定過程が出てこない一方で、現場で活躍した奥や著者の仕事については本書は非常に詳細に触れている。イラク戦争及び戦後復興への日本の関わりについては、日本国内で多くの議論が展開されたことは記憶に新しい。しかし一部を除いて本書にそういった議論に関わる記述は無い。本書に出てくるのは、日本政府の決定した方針、そしてその枠内で精一杯の努力をしイラクの復興に思いを馳せる実務家の生き様である。自衛隊をめぐる法的な問題、憲法9条の持つ意味、国際安全保障のあり方、イラク戦争の正当性、こういった問題はもちろん重要である。しかしこういった議論だけでなく、それでは国際協力の現場、日本外交の現場に立つ実務家達がどのように考え、どのように行動してきたのかについて考えることも重要なのではないだろうか。
 蛇足であるが、本書の主人公の1人である奥克彦は本当に優秀な外交官であったようだ。それは本書からも伝わってくるが、他の本からもそれは伺える。手嶋龍一氏が『外交敗戦』(旧題『一九九一年 日本の敗北』)の中で、湾岸戦争時の数少ない日本外交の「勝利」として描いている出来事がある。ここでその詳細は紹介しないが『外交敗戦』では伏せられている匿名の外交官が、本書の記述(336頁)によれば奥克彦だというのである。

at 22:30│Comments(0)本の話 

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