2006年05月26日
散歩する金曜日。
雨が降りそうで降らないという微妙な天気の中、三田から六本木まで歩く。サニーデイの「東京」を聴きながら、というのはちょっとベタというか古いというか…。
6限、日本外交(GRIPS)
テキスト:坂元一哉『日米同盟の絆』(有斐閣)
コメントは以下のとーり
1、重要な研究テーマ&質の高い実証研究
本書は、筆者が長年に渡って継続的に研究してきた1950年代の日米同盟関係についての既発表論文を再構成し、さらに最新の研究成果も盛り込んだ形で1冊の研究書としてまとめたものである。戦後日本外交にとって基本的な「かたち」を基礎付けたといえる日米同盟がどのように形付けられたのか、という極めて重要なテーマに真っ向から立ち向かった本書の試みは非常に意義深いものである。「安保条約と相互性の模索」という副題もその内容に適したものである。1950年代を細かく区切った個々の研究の論文集ではなく、旧安保条約の締結から安保改定までの約10年間を視野に入れて再構成されていることにより、読者は筆者の問題意識を自然と意識しながら読み進めることが出来る。さらに各章それぞれに解明すべき課題を設定し、着実にそれに応えているといえよう・このように研究テーマと共に本書で際立っているのが、その実証研究としての質の高さである。資料の使い方が非常に丁寧であることによって、本書の実証性が高く保証されている。ただ資料が存在すると引用するだけではなく、その資料の意味や公開状況や先行研究でどのように使われたのか、といった点まで詳細に検討している類書は少ないだろう。
2、安保改定の逆説?
以上のように高い評価をした上で、ここでは本書の根幹部分に関して1つの疑問を提起したい。上記のように本書は、1950年代の日米同盟の変遷の分析という一貫した問題意識に特徴付けられている。しかし、一点だけこの問題意識に照らして気になることがある。それは「安保改定の逆説(安保改定の先に真の日米対等化を果たすという岸の意図に反して、安保改定によって安定化した日米関係が大きく動くことがなくなった)」についてである。果たして、筆者のいう「安保改定の逆説」は本当に逆説だったのだろうか。サンフランシスコ講和へ至る時期の吉田評価をめぐって筆者は「力の論理」で吉田の行動を正当化している。(このような筆者の「力の論理」による説明には議論があるだろうが、)岸の構想は「力の論理」を考えれば、もともとから無理な話だったのではないだろうか。吉田と岸で評価基準を変えることは、1950年代の日本外交評価を考える際にある種の歪みを生んでしまうのではないだろうか。
3、その他の疑問点
その他いくつか疑問点を挙げておく。1つは前記の「力の論理」(62頁)の問題である。「力の論理」から当時の日米関係を説明することの妥当性も問題であるが、この論理から演繹すれば1960年代以降に日本が力を付けてからの日米関係はどのように説明されるのだろうか。この点は「はじめに」における筆者の強調する本書の現代的意義を考える際に重要になるだろう。2点目は、本書では条約論を中心に据えた結果として、条約を超えた先に両国(特に日本)が何を目指したのかが不明確なのではないだろうか。これは疑問ではないのだが、同時期のアジア外交を筆者がどのように考えるかは気になるところである。アジア外交の分析が筆者の目的ではないわけでこの点が足りないといって批判することはあまり建設的ではないが、同時期の日本外交を総体的に理解するためにはアジアに関する分析も必要になるだろう。
◇
この本は下手に読みすぎているために論点を提示するのが難しい、と思っていたのだがそれだけではなくこの本そのものに論点を出しづらい構造が隠されていたのだな、ということが授業の議論を通して何となく見えてきたように思う。
6限、日本外交(GRIPS)
テキスト:坂元一哉『日米同盟の絆』(有斐閣)
コメントは以下のとーり
1、重要な研究テーマ&質の高い実証研究
本書は、筆者が長年に渡って継続的に研究してきた1950年代の日米同盟関係についての既発表論文を再構成し、さらに最新の研究成果も盛り込んだ形で1冊の研究書としてまとめたものである。戦後日本外交にとって基本的な「かたち」を基礎付けたといえる日米同盟がどのように形付けられたのか、という極めて重要なテーマに真っ向から立ち向かった本書の試みは非常に意義深いものである。「安保条約と相互性の模索」という副題もその内容に適したものである。1950年代を細かく区切った個々の研究の論文集ではなく、旧安保条約の締結から安保改定までの約10年間を視野に入れて再構成されていることにより、読者は筆者の問題意識を自然と意識しながら読み進めることが出来る。さらに各章それぞれに解明すべき課題を設定し、着実にそれに応えているといえよう・このように研究テーマと共に本書で際立っているのが、その実証研究としての質の高さである。資料の使い方が非常に丁寧であることによって、本書の実証性が高く保証されている。ただ資料が存在すると引用するだけではなく、その資料の意味や公開状況や先行研究でどのように使われたのか、といった点まで詳細に検討している類書は少ないだろう。
2、安保改定の逆説?
以上のように高い評価をした上で、ここでは本書の根幹部分に関して1つの疑問を提起したい。上記のように本書は、1950年代の日米同盟の変遷の分析という一貫した問題意識に特徴付けられている。しかし、一点だけこの問題意識に照らして気になることがある。それは「安保改定の逆説(安保改定の先に真の日米対等化を果たすという岸の意図に反して、安保改定によって安定化した日米関係が大きく動くことがなくなった)」についてである。果たして、筆者のいう「安保改定の逆説」は本当に逆説だったのだろうか。サンフランシスコ講和へ至る時期の吉田評価をめぐって筆者は「力の論理」で吉田の行動を正当化している。(このような筆者の「力の論理」による説明には議論があるだろうが、)岸の構想は「力の論理」を考えれば、もともとから無理な話だったのではないだろうか。吉田と岸で評価基準を変えることは、1950年代の日本外交評価を考える際にある種の歪みを生んでしまうのではないだろうか。
3、その他の疑問点
その他いくつか疑問点を挙げておく。1つは前記の「力の論理」(62頁)の問題である。「力の論理」から当時の日米関係を説明することの妥当性も問題であるが、この論理から演繹すれば1960年代以降に日本が力を付けてからの日米関係はどのように説明されるのだろうか。この点は「はじめに」における筆者の強調する本書の現代的意義を考える際に重要になるだろう。2点目は、本書では条約論を中心に据えた結果として、条約を超えた先に両国(特に日本)が何を目指したのかが不明確なのではないだろうか。これは疑問ではないのだが、同時期のアジア外交を筆者がどのように考えるかは気になるところである。アジア外交の分析が筆者の目的ではないわけでこの点が足りないといって批判することはあまり建設的ではないが、同時期の日本外交を総体的に理解するためにはアジアに関する分析も必要になるだろう。
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この本は下手に読みすぎているために論点を提示するのが難しい、と思っていたのだがそれだけではなくこの本そのものに論点を出しづらい構造が隠されていたのだな、ということが授業の議論を通して何となく見えてきたように思う。
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│本の話