ある木曜日。NO MUSIC NO LIFE?

2006年04月21日

キャベツも元気です。

大学院棟のキャレルは収容所みたいでいまいちかな~と思っていたのだが、実際に使ってみると、俺の席は窓際で眺めもいいので意外と悪くない(六本木の勝ち組タワーが見えるのは癪だが)。周りに人が少なければ図書館よりも快適かもしれないので、景色に飽きるまでは使ってみよう。

6限、日本外交(GRIPS)。

主として博士論文を基にした日本外交史の研究書を毎週1冊読んでいくという授業。少人数な上に、周りがすでにプロの研究者という環境なので、やや覚悟が必要。仕方がないので、「学部を出たばかりで社会常識が身についていない」ということにして生意気にどんどん好きなことを言っていくことにした。

今日の本は↓

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服部龍二『東アジア国際環境の変動と日本外交』(有斐閣)

今回出したコメントは以下のとーり。

1、資料の使い方について

方法論的な問題に関して言えば、本書はいわゆるマルチ・アーカイヴァル・アプローチを採用している。日本語(日本)・英語(アメリカ及びイギリス)は当然として、中国語(中国及び台湾)・ロシア語(ソ連)の一次資料を用い、さらにハングル語の二次資料も用いた上で、国際関係史として1918年から1931年の東アジア国際政治を、日本外交を中心に実証している。筆者自身が指摘しているとおり(14-15頁)、このアプローチの一つの問題点として、実証の対象である国際的な事象の全体像を描き出すことには適しているが各国の外交政策の諸潮流といった政治外交史的な分析には適さない。しかし、本書はこの問題点を、主要各国の外交文書や個人文書を丹念に読みこむことで克服しようと試みている(この試みが成功したか否かについてはコメント2で論じる)。このようにして構成された本書は、実証的な意味では他の研究の追随を許さない、限りなく完璧に近いものを有していると言えるだろう。具体例としては、中国の研究状況について触れている7-8頁を参照。

2、分析枠組について

本書では、?1918-1931年の東アジア国際政治の全体像を描き出すこと、?関係各国における対外政策の諸潮流を内在的かつ多元的に考察する、という二つの課題を設定している。そのうち後者を理解するために筆者は次のような分析枠組を設定している。

 本書では、研究史上しばしば争点となってきた中国への「干渉」という概念を定義しながら援用することで、錯綜する政策決定者間の立場の相違と変遷を長期的な視野から把握することを試みる。(中略)本書で「干渉」とは、軍事的な介入やその再編、および軍事力を背景とした威嚇という「軍事力による干渉」、または、親日化や権益の拡張といった一定の目的のために特定集団を排他的に援助して利用せしめんとする「政治指導者への干渉」、のいずれかに該当する対外政策をいう(13頁)。

そして、それぞれを四つの段階に分けてマトリックスを作成している(13頁)。果たしてこの分析視角は適切だろうか。小池聖一も指摘しているように(『国際政治』第133号)、そもそも日本の対中国政策は「関内」と「満州」でそれぞれ担当者が異なっている。両地域を担当する首相や外相の比較ならともかく、外交官や軍部を含めた上でこの両者を同一の座標軸に置くことには若干の無理があるのではないだろうか。また、スペースの関係上詳しくは述べないが、それぞれの評価に関しても大きなマトリックスを設定したがゆえに無理が生じているのではないだろうか。

3、第一次世界大戦と日本外交に対する影響

本書は、第一次世界大戦が日本外交に対して与えた影響を重視している。その理由としては が挙げられている。しかし、日本のとりわけ陸軍を中心とした北の脅威に備えるという側面は結局のところ日露戦争以来、第二次世界大戦に至るまで変化していないのではないだろうか。この点が、日露戦争以来の日本外交に決定的な影響を与えたと考えると、筆者はいささか第一次大戦の変化を強調しすぎており、筆者の問題意識に沿って1931年以降の「戦間後期」を分析することは困難であろう。もちろん本書が1918-1931年を分析対象としている点を考えれば、筆者の主張はもっともであるのかもしれない。しかし、筆者の先に挙げた問題意識?を考えれば、第一次大戦の日本外交に与えた影響に関してより広い戦間期全体を見渡すことが出来る可能な見方をすべきではないだろうか。

相変わらずどんなコメントを出せばいいのかが掴めないので試行錯誤中。が、今日の授業の議論で何となく掴めたような気がする。今回出したのはちょっと誉めすぎだった。ディスカッションを経ての感想として…史料の量に圧倒されずに、本としての読みやすさ、学会にとどまらない問題設定の必要性などにも目を配らないといけない。本書の手法を「局地戦における戦術パターン:先行研究が等閑視している(しかし存在した/重要な)事柄を取り上げる」とするコメントがあったのだが、これは秀逸。本書の問題点がよくあらわれていると思う。

at 23:58│Comments(0) 本の話 

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